2022年12月29日(木)/仕事と生活を除いた2022年の雑感

最近はっきり自覚したのだけど、映画や小説などの創作物にはとことん自分を痛めつけに来てほしい。そういう欲求がわたしにはあります。傷ついて、そこから時間をかけて傷つきの理由を見つめて、自分を知りたい。そう、自分を知る手立てとして創作物や表現全般に触れているんだと思います。

 

で、ひとまず映画に限って言えば、去年は『花束みたいな恋をした』『アレックス STRAIGHT CUT』『愛のコリーダ』『戦場のメリークリスマス』などを映画館で観て、それぞれ方向性は違うもののしばらく引きずる重さを持った作品で、どれもヘロヘロになりながら帰路に着いたものです。(花束以外は完全な新作ではないけれど)2021年は自分にとって痛めつけ映画豊作の年だったと言えるでしょう。

 

いっぽう2022年に目を向けると、まず、自分自身が仕事にかまけ放題だったため、仕事が絡まない映画や本にあまり触れられませんでした。痛めつけ云々以前に、そういう問題があった。

 

で、こちらは傷つきを求めに行っているわけなので、同年代の生き方、結婚妊娠出産あたりを取り上げる映画にはそういう期待をして、見つければ率先して観に行っていたわけですが、その筆頭のような『わたしは最悪。』も『セイント・フランシス』も自分には「頭で作ってるな」としか思えなかった。きっと誰かの気持ちを軽くする映画だろうなとは思ったけど、もっと深いところから傷を抉ってほしいという自分のニーズに応えるものではなかったのです。

 

女性の体や性を扱う映画で言えば、『六月の蛇』が今年公開20周年記念で、一夜だけのリバイバル上映が新文芸坐であったのに仕事で行けず悔しかったので、配信を見つけてたぶん10年ぶりくらいに観てみた。ら、ストーリーなんてもはや破綻してる感じだけど、異常な熱量と緊張感で突っ走る、その熱さにひどく感激してしまった。体にガツンとくる。痺れる。基本的に集中力がないので配信で映画を最後まで観ること自体あまりないんだけど、これは余裕でした。

 

しかし、どうなんですかね。たぶん、私がピンと来なかった2作の方が時代に合っていて、『六月の蛇』は20年前だから作れたもののような気がしないでもない。でも自分は、『六月の蛇』が女性の性の切実さ、「女性の自己決定権」とかのきれいな言葉には収まりきらない矛盾した欲望を描いていることにめちゃくちゃグッと来てしまう。

 

そんなわけで2022年に公開された、30代女性の自己決定権系映画(めっちゃ適当な括りなのであまり間に受けないでください)にはあまり心を動かされなかった私ですが、同じく今年公開の映画でひどく抉られたのが、満75歳以上に死の自己決定権を与えるという近未来の日本を舞台にした『PLAN75』でした。同年代かどうかとかが自分にとっての大きな問題ではなかった、社会に蔓延する優生思想的な価値観を突きつけてくるこの映画にこそ痛めつけられたのです。

 

観たあと45日位気落ちしていたし、街中にあるマイナポイントの広告を見たりワクチンの大規模接種センターに行ったりしてまた気落ち。というのも、この映画の中で描かれる「PLAN75」という政策の打ち出し方が、マイナポイントみたいな一種の軽さを持って描かれていてそれが妙にリアルだったし、大規模接種センターのような過不足のない親切さが、「PLAN75」で死を選んだ高齢者が最後に向かう施設のスタッフのそれと似ていて、だからこの映画はまさに今の日本社会ではないか、みたいな気持ちになるのですよ。(ワクチン無料で打たせてくれるのはありがたいことなので、それを否定しているわけではないです、ウェブに書くときには要らない注釈をつけたくなるなぁ、私は見えない敵と戦っているのか?)

 

この映画を観て「75歳になったら死を選べるなんてありがたい!」という反応をする人も結構いるようで、そう思う気持ちもわからなくないけど、やっぱり、少なくとも現時点では、そういう価値観に私は抗いたい。映画の冒頭に若者が大量殺人を犯すシーンがあり、それはやまゆり園事件を想起させるもので、国が75歳以上の高齢者を死に導く政策の根本にあるものは、あの事件の犯人の考え方とどう違うのか、と観客に突きつけていると考察するツイートを見て、だからこそやっぱり抗いたいと思った。

 

内容そのものの話とややずれるが、この映画を撮った早川千絵さんが今回45歳で商業映画デビューをされていることもめちゃ興味深い。もともと映画を学んで海外留学をしたのちに、育児でキャリアが中断。そこから再度映画の道に戻って、こんなにすごい映画を作った早川さんの歩みにも興味を惹かれる。

 

この映画も脚本に4年かけたということなので、今後も、新作をバンバン発表、という感じではないかもしれない。だけど、早川監督が、悲惨なテーマを描きながらも、世界に対する美しさへの信頼のようなものを持っていることをスクリーンから感じ、だから何年後になってもいい、次回作を楽しみに待ちたい。

 

さてはて、映画はそのほかにも『偶然と想像』『香川1区』『スープとイデオロギー』『ある男』『NOPE』『TITANE』とかがよかった。『すずめの戸締まり』はよくわからなかった、というか新海誠全般よくわからないのに一応新作が出たら映画館で観ている自分の行動もよくわからない。人間の手に負えないやばいやつに立ち向かう映画だったら『NOPE』の方が断然好き。だから本当に、この映画のどこに刺さればいいのかまじでわからない。皮肉とかじゃなくて、本当にただわからない。こないだ出たラジオでも「すごく感動して逆に喋れない」と語りを拒もうとしていた鈴木謙介さんに、それでもズケズケ尋ねてみたけれど、聞いても聞いてもやっぱりわからない。だけどそのわからなさに興味がある。だから今後もこのわからなさを抱えていきたい。

 

あと演劇もたぶん去年より観れませんでしたね。いくつか観たことのない劇団にもチャレンジしたものの、どれもあまり自分には刺さらなかった。あ、内容云々は(完全に)さておき、花園神社の唐組を初めて観たことは、経験としてはよかったです。最後にセットが後ろに倒れて役者が宙吊りになるだけでありがたいものを観た気分になったし、演劇そのものが始まる前の整列からして独特で、お祭りに来たみたいな高揚感を味わえました。でもまあ、もう行かないだろうな。

 

あとあれだ、マームとジプシーにも数年ぶりに再挑戦してみたけれど、今回で徹底して自分とは合わないなと悟ったりもしました。https://twitter.com/yucchi_ro_rin/status/1566044308586651648?s=61&t=etHF17QgE8eYt4prDEzcOA

 

んで、何がよかったかというと結局、ハイバイでありナカゴー・ほりぶんで、好きな劇団の入れ替わりが少ない。上記に挙げた劇団はいつ観てもおもしろいから、むしろ変だと思う。おもしろくないことがないって、ほんとすごい。

 

特に、ハイバイの『ワレワレのモロモロ』はすごかった。「ワレワレのモロモロ」は、役者さん自身が辛かった・しんどかった経験を脚本にして、その本人を含める複数人で作品として演じるシリーズ。舞台上にいる当事者の過去をお焚き上げする瞬間を観客が目撃する、ある種の精神療法のような作品で、観ている側にも浄化がもたらされるような不思議な手触りのあるシリーズなのです。

 

今回特にすごかったのは、川面千明さん「川面の出産」で、ハイバイ劇団員の川面さんの実際の出産にまつわるしんどさを演劇化したものだったんだけど、爆笑しながら涙が勝手に流れてくるという珍しい経験をさせてもらった。妊娠とか出産の本当に辛い部分って、なんとなく伏せられているようなムードがあるけど、この演劇によって追体験できた感じがある。だから、今後父親になる方にはぜひ観てほしい、赤ちゃん相当の重さのやつをお腹につけてみるとかよりも、ずっとリアルにヤバさがわかりそう。できればあの映像を父親学校(?)の必修化にすべきだと思うけど、もう配信もとっくに終わっていて、今から観る機会がないので残念。また何かの機会にアーカイブ配信することもあるかもしれないので、妊娠の予定がある人もない人にも強くお勧めします。『エルピス』で大活躍した村井役の岡部たかしの息子・岡部ひろきが、父・たかしへの葛藤を演劇化した「自己紹介岡部」もよかった、というかこんなこと演劇にしていいんだ、って感じですごかったので、ほんと、再配信を気長に待ちたい。

 

はー、お笑いとか本とかのこともおさらいしたかったけど、疲れたのでこれで終わり。お笑いは書くのが大変だし、本はほんとに仕事関連以外読めてないし。一言だけ書くとしたら、東畑開人さんの『聞く技術、聞かれる技術』と『なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない』はめちゃよかった。あと『枡野浩一全短歌集』はZINEを作ってる時心の支えにしていました。

 

明日の夜には地元に帰るんだけど、帰ったらもう、ブログを更新する気力が沸かないのが目に見えているので、不完全だけどとりあえず残しておきたかった、2022年の仕事と生活を除いた、というか主に観た映画と演劇の雑感でした。