2020年10月17日(土)/善き行動の一部始終

VRを初めて体験した。庭劇団ペニノという劇団の『ダークマスターVR』という、VR演劇である。

 

演劇の中のひとりの人物の視点を借り、その作品の中に入り込むような演出。ゴーグルの向こうから役者がこちらに向ける視線に息苦しくなる。逃げ場がない。

 

演劇は始まると途中で出るのはむずかしいし、最中は演劇を観る以外のことができないので、物語に「没入させられている」状態とも言えるわけだけど、この作品ではもう一歩踏み込んだ形で、強制的な没入状態を作られる。苦しくなって、途中にちょっと目をつむったほど。

 

この作品の後半に、それに近い場面があるのだけど、VRのAVはさぞかし臨場感があるだろう。その晩お店に来た男性のお客さん(の中で怒らなさそうな人)に体験があるか聞いてみたが、ちゃんと観たことがあるという人はおらずがっかり。AVも良さそうだし、多分ホラーにも適している。刺激の強いものに合っているのかも。

 

だけど自分はそういう刺激物よりも、VRで色んな人の日常に入り込んでみたい。自分以外の人の何気ない1日はきっと、発見の連続であろう。

 

観劇後、一緒に観に行った友達たちとサイゼリアで感想やら何やら。一緒に観に行ったとはいえ、ブースに一人一人入って、ゴーグルとヘッドフォンをつけた状態で観ているため、そもそも本当にみんな同じものを観させられているのか?という疑問もあったが、それはちゃんとみんな同じだった。友達たちの感想を聞くと、理解が深まって楽しい。今回のような作品は特に、ひとりで観に行くよりも、友達と行った方が断然良いと思った。

 

その帰り、池袋駅から新宿に向かう山手線のホームまでの階段を上り切ったところで、「あれは何!」と友達がホームドアへ駆け出した。見ると、あと10cmくらいでホーム、という場所に茶色いお財布が落ちていた。

 

友達は持っていたビニール傘を使ってそのお財布を素早く手繰り寄せ、「こわいこわい」と言いながら上ってきた階段を下り、改札の駅員さんに事情を説明して、迷いなく拾得者の権利を放棄し、財布を託した。一連の動きにいっさいの無駄がなく、後ろをついて行きながら惚れ惚れしてしまった。

 

財布を持ちながら「こわいこわい」言ってたのはどうしてか聞いてみたら、「落とした人の気持ちになったら怖かった」のと「自分がこの財布をとろうとしていると思われたら怖かった」のダブルミーニングだったそう。

 

彼女の、「善き行動」に同伴できてうれしかった。VRゴーグルがなくても、一緒にいれば人の人生の一端に触れられる(大袈裟)。